受け継ぐ 手作りの味、地域の思い

家族で津別町へ移住した、内モンゴル出身のハスオーラさん。町の山間部、相生という地域で続く 豆腐づくりを受け継いでいます。相生の豆腐に込められた思い。そして、奥さん久美子さんと目指すライフスタイルも取材しました。(ハスオーラさん 以下表記  ハス)

この豆腐づくりが 今に続いているのは、すごいこと!

 半世紀以上の歴史がある相生の豆腐。今、それを受け継がれている思いは?

40年以上続いた新井豆腐屋の技を「道の駅あいおい」を始める時、土田のおかあさんが「教えて下さい」って頼みこんで。始めは断られたらしいんですよ。それでも何度もお願いして「じゃあ教えます」と。引き継いだ土田のおかあさんが20年も作り続けて、それを私が教えてもらって 今に続いている。これって本当にすごいこと。

土田さんが復興した相生の豆腐づくり。今も水曜日は土田さんが作っています。

経木で巻かれる相生豆腐。昔からどっしりした食べごたえが人気です。

今は個人で豆腐屋をやっていくのは難しいから。スーパーには安い豆腐が売ってる。どんどん機械化でしょ。手作りの味はなくなっていく。そんな中で、この豆腐が道の駅にたどりついて良かった。そして 引き続きお客さんが手作りの味を求めて来てくれているっていうこと。全ての巡り合わせでつながっている。この文化をなくしてしまったら、もったいない!

作り出したら、豆腐に全部意識が集中しちゃう。

 お豆腐づくりの醍醐味は?

作り出したら、頭の中は豆腐のことだけ。1回覚えてしまえば 工程はシンプルなんだけど、奥が深い。一年間に何千釜も作る。でも、釜ごとに違うから その勘はやっぱり体で覚えるしかない。今、6年目で お客さんも続けて来てくれている。それは 自分の職人としての腕が外れていないっていうことかな。続けて良かったなって思ってる。

左・奥さん、久美子さん。動物とのびのび暮らすのが夢で、家族で津別へ移住。

一歩ずつ、夢を叶えていく場所。

 津別へ移住したのは奥さんのご縁と伺いました。

久美子 一緒に大阪でモンゴル料理店を経営した後、私は料理の専門学校に通ったんです。そこで「動物と暮らしながら、カフェをしたい!」って夢を語っていたら、クラスメートから津別を紹介されたのがきっかけで。それで津別の人に本当に良くしてもらって。

ハス とても お世話になったんです。すごい優しかったの。移住したいって言ったら、厳しいこともちゃんと言って、色々教えてくれて。その人が親方だね。いわば私たちの北海道の親方。

久美子 夢は動物と暮らすことと、イタリアのアグリツーリズモ・農家民宿にもすごく憧れてます。イタリアへ料理の勉強に行った時 泊まったんですけど、食卓ではその土地で生産されたものだけしか出さないとか 色々決まりもあるんです。

ハス 今、旧駅舎のカフェで久美子が出すうどんも、全部自然のキノコ、ワラビ。できればこの土地になるものしか出さないっていう。ある意味それを目指しているよね。

久美子さんは、旧相生駅舎のカフェで地産地消のうどんやモンゴル餃子を提供している。

久美子 民宿まではできないけど、お客さんと動物が触れ合えるような。例えば子どもたちが卵を自分で取りに入れたり。そういう場所を いつか つくれたら楽しいな。

暮らしを あるがままに、自然体で。

北海道への移住をどう思いましたか?

ハス 私は15歳までモンゴルの田舎で育って、母は小学校の教師をしながら、牛を20数頭、ヤギや馬、色んな動物を飼って、家事も畑もして。動物たちは自分で帰って来るから心配しない。牛が1週間ぐらい帰って来ないと、兄弟で遠くの山まで追いには行くけど。昼間は母がいなくても 子牛の面倒を近所で助け合いながら見てる。ほんとに自然体。自然に合わせたやり方だと負担も少ない。これはモンゴルでの生活ね。でも、そういう暮らしをしていたから、彼女の夢をサポートできるなと。

そんな環境で育ったから、家族が一つの仕事や事業に縛られて それに集中するっていうより、それぞれが色んな仕事を両立しながら助け合っていく。そういう感覚。彼女の夢、私の仕事。持ちつ持たれつ 支え合って、ここで 家族の暮らしを築いていきたい。

ハスオーラさん

1974年 内モンゴル出身。亡きお父さんはモンゴル伝統芸能の弾き語り第一人者。今でも国のラジオでお父さんの芸が流れているそう。ハスさんは、子どもの時に放送されていた日本のアニメやドラマで 日本文化への憧れを持ち、2001年日本へ留学。大学時代、久美子さんと出会い大阪でモンゴル料理店を経営。その後、電子製品会社で勤め、2013年津別町第一回の地域おこし協力隊として津別へ移住。「道の駅あいおい」の豆腐工房を引き継いでいる。

久美子(くみこ)さん

1979年 京都出身。動物と料理が大好き。イタリアへ料理の勉強でホームステイに行き、モンゴル料理はモンゴルでハスさんのお母さんから習っている。調理の仕事を経て、ハスさんとモンゴル料理店を経営。2013年に第一子を出産し、津別へ移住。現在は2児のお母さん。昨年、道の駅に隣接した鉄道公園にある旧相生駅舎でカフェをオープン。

道の駅 あいおい

〒092-0361 北海道網走郡津別町 相生83-1
TEL 0152-75-9101  火曜日定休
https://michinoeki-aioi.com/

駅舎Cafe ホロカ

〒092-0361 北海道網走郡津別町 相生83-1
鉄道公園 旧相生駅舎内 冬期休業・曜日限定営業

【取材・編集】小塚翔子(こつか しょうこ)
1983年生まれ、茨城県出身。富良野塾で脚本を学ぶ。
東京で舞台やラジオドラマの脚本、エッセイの連載等を手がける。
2020年に津別町の地域おこし協力隊に着任。
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