#29 好きなことを形に。

チャレンジする人を応援するまち、津別。

茨城県つくば市から移住し、

空き家をリノベーションしてカフェを開業。

それから1年。

樋田(ひだ)さんご夫妻にお話を聞きました。

闊達でカラッとしている繁文(しげふみ)さんと朗らかな早苗(さなえ)さん。いつもナイスコンビネーション。

cafe 津別珈琲、誕生。

2021年7月。津別町・幸町通りに「cafe 津別珈琲」がオープン。もとは農機具店だった築53年の古民家は、1年以上のリノベーションを経て、建物の風情とプロダクト感が心地よいカフェに変身した。お店の完成前から、いつも誰かが薪ストーブの周りでコーヒーを飲み、くつろぐ光景がすごく温かかったことを思い出す。きっとみんな、何か面白いものが生まれそうなわくわく感を嗅ぎつけて集まってきていたのだろう。

クリスマスシーズンのカフェ。

樋田さん、どうして津別へ?

繁文 僕はもともとは北見出身。つくばの方で就職して、そこで妻と出会って。ずっとエンジニアとして働いていたんだけれど、40歳になった時に仕事を辞めて花屋になったんだよね。意外でしょ?朝から晩まで妻と一緒に働いて。ネットで販売して売れるようになると、すごく忙しくて。それでも20年近く続けたね。2年前に、そろそろ自分が生まれた北見に戻ろうと、お店ができるような所を探していたけれど、なんだか、隣の津別の方が盛り上がっているような気がして、すごく気になった。

早苗 私は生まれてからずっと茨城。茨城から出たことがなくて。もちろん、一緒に北海道に移住しようと決めたけれど、津別はどんなところなのか、道東テレビのYoutubeを見て色々と情報収集はしてたかな。移住する前から、どんな人がいるのか、町の雰囲気も知れたからすごく良かった。

 

築53年の農機具店でカフェのイメージが湧いた。

セルフリノベーション中の風景。 繁文さんが自分で図面をひき、天井も取り払って吹き抜けに。

新山機械店さんのいい味が出てますよね。

繁文 この建物は、見た瞬間にビビッと来て、カフェのイメージができて、もうここしかないと思った。元々の建物の好きな部分は残したいと思ったし、プロダクトっぽさを混ぜたカフェにしたかったから、土間なのも古い建具があるのも最高に良いよね。元は農機具のお店で、重いものを吊るして作業していたらしくて梁も立派。図面を自分で引いて、自分たちでリノベーションをして、完成までは購入してから1年半はかかったかな。でも楽しかったね。

早苗 本当にいつ終わるんだろうって思ったけど、子供達も茨城から手伝いに来てくれて、壁を壊したり、漆喰を塗ったり。作業中も町の人が来てくれて、おしゃべりして、それがすごくうれしかったよね。やっぱり窓も大きいし、薪ストーブとかがあったりすると、通りを歩いてる人も気になって入ってくるんだろうね。

繁文 カウンターの天板は町の人から厚くてしっかりした板を頂いたものだし、薪も農家さんからだね。

 

お店の味。スペシャルティコーヒー&ホームメイドスイーツ。

コーヒーは繁文さんが、スイーツは早苗さんが担当する。どちらも素材を大事に。

「スペシャルティコーヒー」って初めて聞きました。

繁文 僕たちは、素材には変なものを使いたくないというのが前提にあるから、コーヒーに関しても、豆からカップまでの間のことをしっかり分かった上でお客さんに出したい。だから、お店で扱うのは、全てスペシャルティコーヒー。自分でも、そういうコーヒーが飲みたいし、やっぱり美味しいよね。基本、僕らの好きなものを出す、変なものは出さない。スイーツも同じで、今までずっと家で食べてきて美味しいと思ったものだよね。

早苗 お菓子作りは子供が産まれてから始めて、ガトーインビジブルなんかは、もう25年くらい作ってるよね(笑)。幼稚園の英語の先生が教えてくれてね。慣れ親しんだ家庭の味だけれど、お店で出す味にするのに、もう一度見直して、色々試して、今までで一番勉強したかもしれない。素材もなるべく地元のものを取り入れるのが、私たちにとっては自然なことだから、休日はルバーブとかブルーベリーとかを探しにドライブに出かけたりして。

繁文 定休日にはずっと焙煎をしているから、コーヒーの香りが通りに広がっていると思う。豆がどこの農園で栽培されて、どんな発酵の仕方をしたかで、焙煎の具合を変えていて、基本はパソコンで管理してムラなくね。でも、自分の目で見て、コーヒーがはぜる音を聞くことは大切だよね。コーヒーの味を決めるのは焙煎で、ハンドドリップで美味しい一杯を出すためには良いグラインダーを使うこと。

早苗 コーヒーをスイーツと一緒に楽しんでもらおうと思ったらカップ一杯では足りない。だからお店ではポットで、カップ2杯分を出してます。やっぱり来ていただいたからにはゆっくり過ごして欲しいから。

 

始まりは一杯の“サザモカ”。茨城のコーヒーカルチャー。

お店を開くまでにコーヒーが好きになったきっかけは?

繁文 もともとコーヒーは好きだったけれど、つくばはコーヒーカルチャーがすごいんですよ。お店の数も多いけれど、行くとセミナーをやっていたり、焙煎を見せてくれたり。生活の中にコーヒーがある、という感じだったから、カフェ巡りも自然とずっと続けていて。だけど、やっぱり始まりは10年前に、サザコーヒーで“サザモカ(エチオピア)”を飲んだ時。初めて「ナチュラル」のフルーティーさを体験して本当にびっくりした。それまでは、これがいい!っていう特別な好みもなかったけれど、そこから、グーーーっとハマって、セミナーにも随分通ったね。

早苗 試飲会は本当によく行ったよね。イベントも多くて、「コーヒー豆まき」なんて大人が本気でやってて、すごく面白かった。コーヒー好き達が集まって、たくさんのことを教えてもらいながらね。それは今も変わらないね。

繁文 そう。つくばのCOFFEE FACTORYさんも、オープン前からずっと相談に乗ってもらって、今も変わらず。有難いよね。

 

cafe津別珈琲×道東での暮らし。

Twitter:@HidaShigefumi

津別珈琲さんのSNS、道東の風景が気持ちいですよね。

繁文 SNSは花屋だった時からずっとやってきたことだけど、今はお店のことの他に、休日に行った場所や出会った人なんかも投稿してて。メルヘンの丘や阿寒、川湯はよく行くよね。何回行ってもいいし。

早苗 茨城から来ると、やっぱり空が広いし、車で走る道が全て美しい。本当に楽しい。前までは、那須高原に行っては空気が美味しいって思ってたけど、こっちに来たらもっと美味しかった(笑)。斜里岳って何となく筑波山に似てる気もしていて、その風景もすごく好き。

すごく充実してますよね、今後やりたいことってありますか?

繁文 こっちに戻ってきて、何を仕事にしようか考えた時に、やっぱり自分の好きなことをしたいなって思ったんだよね。それが、コーヒーとスイーツのカフェっていう、これまでの自分たちの生活の延長にあった訳だけれど。今までの経験も大事にしながら、楽しいと思えることをやっていきたいね。前に、津別高校の3年生の授業で少し話す機会があって言ったことは、自分の好きなこととか得意なことがあってその道に進むっていうのは大切だけど、実際は、まずやってみて経験して見つかるものな気もするよね。

早苗 最初の冬は本当に寒くて寒くて、どうなってしまうのかなって思ったけで、今、本当に楽しい。だけどやっぱり、この通りも夕方は閑散として寂しいよね。誰が通るわけではないけれど、閉店後もしばらくはシャッターを開けたままにしておくの。通りが少し明るくなって、寂しくないように。だから、この通りにもっとお店ができていったらいいよね。

 

今日も、焙煎されたコーヒーの香りと

夕暮れ時のお店の灯りに、

通り全体は優しい雰囲気に浸ります。

 


樋田 繁文(ひだ しげふみ)さん

北見市出身。高校生までを釧路で過ごし、茨城県に就職。エンジニアとして働き、40歳でお花屋さんとしての再スタート。津別町に移住し、妻 早苗さんとcafe津別珈琲をオープン。

樋田 早苗(ひだ さなえ)さん

茨城県出身。服装学科を出て、衣食住・育児に関して学ぶ。職場で繁文さんと出会い、結婚。子育てをしながら、繁文さんと一緒にお花屋さんの仕事をする。カフェではスイーツを担当。

cafe 津別珈琲 Twitter:@HidaShigefumi Instagram:@coffeelover_woody


取材:萩原 由美乃